はじめに

患者の安全をはじめとする医療の質が鋭く間われている今日、医療従事者、特に医師には、その専門領域を間わず、白ら提供ずる医療の有効性と安全性、更には効率性についての説明責任と透明性をかつてないほど強く求められている。具体的には、日々の臨床において患者中心の臨床アウトカムを重視するEBM(根拠に基づく医療)を実践することが強く求められている。

EBMとは、手に入る最新最良の医学情報を吟味し、患者に特有の臨床状況と患者の価値観に配慮して患者の問題を解決しようとする診療態度を指すが、コミュニケーション能力と共に医療人に求められる基本的コンピテンシーの一つである。特に平成16年4月から.実施に移された新医師臨床研修制度の中では、理念としての「人格の掴養」および「基本的臨床能力の修得」に続く「行動日標」のなかで「問題対応能力」としてEBMの実践が取り上げられている。

しかし、現実の研修プログラム立案においては、診療科ローテート期間や順序に議論が集中し、EBMの教育方略はなおざりにされている。臨床研修医の多くは日常診療業務に忙殺される中で、診療態度としてのEBMを身に付け、文献検索・吟味の手法に習熟することなく、2年間の研修期間を終えてしまうことが懸念される。

本研究では、臨床研修医が2年間の初期研修期間を通じて診療態度としてのEBMを身に付けることが出来るよう、研修医を対象とした教育カリキュラムを開発するとともに、EBM普及のための支援ツールの開発を日指した。

また一方で、大学附属病院や主要な研修病院の指導医層に今なお残存する慣習墨守の傾向、即ち患者中心の臨床アウトカムや予防医学を重視する疫学的方法論になじめないまま、EBMの実践を最初から忌避する白己防衛的心理傾向の克服を促すべく、指導医の能力開発(ファカルティ・デベロップメント)のための教育モジュールの開発も目指したが、現場の指導医が利用しやすいことを特に念頭に置いた。

組織紹介

 
研究者名 分担する研究項目 所属機関及び現在の専門
(研究実施場所)
ホームアドレス(URL) 所属機関における職名
小泉 俊三 総括・研修医の実地指導 佐賀大学医学部附属病院
総合診療部
http://www.genmed.saga-med.ac.jp 副病院長
長谷川 敏彦 医療行政とEBMについての教材作成

日本医科大学
医療管理学教室

http://college.nms.ac.jp/ 主任教授
葛西 龍樹 家庭医養成のための教育セッション企画
研修医実地指導、Clinical Evidence編集
福島県立医科大学医学部地域
家庭医療部
http://www.fmu.ac.jp/home/comfam/ 教授
名郷 直樹 地域医療症例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
地域医療振興会・ 横須賀市立うわまち
病院臨床研修センター
  センター長
吉村 学 内科系症例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
岐阜県揖斐郡地域医療センター   センター長
武藤 正樹 外科系癒例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
国際医療福祉大学三田病院外科 http://mita.iuhw.ac.jp/ 副院長
津谷 喜一郎 EBMの基本について 教材作成 東京大学大学院薬学系研究科
医薬政策学
  客員教授
長谷川 友紀 EBMとガイドラインについての教材作成 東邦大学医学部社会医学講座
医療政策・経営科学分野
  教授
北井 啓勝 産婦人科症例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
埼玉社会保険病院  部長
多治見 公高 救急外来症例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
秋田大学医学部
救急・集中治療医学分野
  教授
上野 文昭 内科系症例シナリオ作成と文献の選択
研修医の実地指導
大船中央病院 http://www.ofunachuohp.net 特別顧問
鎌江 伊三夫 EBMガイドラインについて 神戸大学大学院都市安全医学
研究分野
  教授
福岡 敏雄 教育プログラム作成および収集 国立名古屋病院診療部
心臓血管外科 ICU
  副室長
山城 清二 教育プログラム作成および収集 富山大学附属病院 総合診療部   教授